コラム「ばけばけ」展 夫婦が愛した怪異と日常
「ばけばけ」展 夫婦が愛した怪異と日常

2025年度後期のNHK朝ドラ『ばけばけ』の モデルとして注目を集める文豪・小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)と、その妻・セツ。明治という西洋化の波に揉まれる日本で、「目に見えないもの」を追い続けたのは何故でしょうか。
展示された二人の波乱に満ちた生涯年表と、 八雲が描いたユーモラスな妖怪画の模写を通じ、その独特な視線に至る道程に思いを馳せました。年表が示す通り、ギリシャに生まれアイルランドで育った八雲の半生は、家族の離散と孤独に彩られていました。40歳で来日した彼が、島根県松江市で運命の伴侶・セツと出会ったことは、日本文学史においても重要なポイントとなりました。
士族の娘であったセツは、幼い頃から語り継がれてきた伝説やお化けの話を、驚くほど豊かな表現力で八雲に伝えました。言葉の壁を越え、セツが語り、八雲が英語で紡ぐ――この夫婦の共同作業こそが、名作『怪談』の源泉となったのです。
八雲が心惹かれたのは、近代化による合理化の下、当時のエリートたちが捨て去ろうとしていた「古い日本」の庶民文化でした。人々が日常的に口にする「化け物」の噂の中に、日本人の精神を見出しました。また、八雲によるお化けの模写は、決して恐ろしいだけのものではありません。八雲にとって妖怪とは、自然への畏怖であり、隣に寄り添うものであったようです。
晩年、セツは八雲を「ヘルンさん」と慕い、互いに深く慕っていた様子は、朝ドラでもよく描かれており、二人が愛した世界は不思議なユーモアと慈しみに満ちていました。
「ばけばけ」展は「目に見えないものへの想像力」を再発見させてくれる貴重な機会となりました。 八雲が見た「お化け」のいる風景は、現代においても、私たちの心の奥底に、静かに息づいているようです。(K.T.)
